施設介護の現場では、無数の「困りごと」が発生します。
日々の入浴拒否や不穏への対応、ヒヤリハットの防止、終わらない書類作成など。
「自分の対応は正しかったのだろうか…」
「職員によって対応の仕方がちがって、ご利用者が混乱してしまう…」
そんな悩みに少しでも役立てるように、この記事では
- 身体ケア
- 認知症対応(BPSD)
- 記録・チーム連携
の3つの視点から、現場で今すぐ使える具体的な解決策をご紹介します。
身体・ケア面の困りごとと対応(事故防止と負担軽減)
介護現場で日常的に起こる「ケアへの拒否」や「転倒・誤嚥」のリスク。
これらは一昔前のような根性論ではなく、観察ポイントと声かけのコツをつかむことがポイント。
拒否・不穏への対応(入浴・服薬・帰宅願望)
拒否や不穏の対応は、職員にとっても対応に困る事案です。
しかし、拒否する・不穏になるといった背景には、
必ず「恐怖」「不快感」「自尊心の低下」といった理由が存在します。
入浴拒否へのアプローチ
- NG: 「お風呂の時間ですよ。みなさん入っていますよ」(時間を理由に強制)
- OK: 「お湯の温度を確認していただけますか?」(役割を依頼して浴室へ誘導し、選択権を渡す)
服薬拒否へのアプローチ
- NG: 「飲まないと病気が悪化しますよ」(不安をあおる)
- OK: 飲むタイミングや形状(粉・ゼリーなど)の再検討。口内の不快感や呑み込みにくさがないかを観察し、看護師へ相談する。
帰宅願望へのアプローチ
- NG: 「ここがあなたの家ですよ」「外は暗いから帰れません」(現実を突きつけて否定)
- OK: 「夕食の準備ですね、いつもありがとうございます。まずはお茶を飲んで一息つきましょう」(過去の役割意識を受け止め、場面転換を図る)
転倒・誤嚥を防ぐ「いつもと違う」前兆サイン
事故というものは突発的に起きるのではなく、必ず事前にちいさな変化(サイン)が現れています。
- 歩行の変化: すり足が増えた、歩幅が狭くなった、左右に揺れる(筋力低下や薬の影響)
- 立位の保持力: 立ち上がり時に手すりを握る力が弱い、お尻が引き上がらない
- 食事中の動作: 飲み込んだ後に声がかすれる(湿性嗄声)、一口量が極端に増減する、発汗がみられる
介護者の腰痛予防・負担軽減
介護に腰痛はつきものです。
だからこそ、その負担を少しでも軽くしたいものです。
力で何とかしようとする、持ち上げる介護は腰痛の原因になるだけでなく、ご利用者にも恐怖感を与え筋緊張を高めてしまいます。
スライディングシートや重心移動を活用し、「摩擦を減らして滑らせる・支点を意識する」ケアへシフトしましょう。
認知症・行動心理症状(BPSD)への理解と対処
暴言、大声、収集癖、妄想といったBPSD(認知症の行動・心理症状)は、
脳の障害(中核症状)に「環境や体調」が影響して発生します。
「なぜその行動が起きるのか」
「周辺症状」とも呼ばれていたBPSD(認知症の行動・心理症状)の裏には、かならず動機や理由があり、
ご利用者なりの「理屈」や「不快感」が隠れています。
- 収集癖: 「自分のものが盗まれるのではないか」という不安の表れ
- 大声・暴言: 身体的な痛み(便秘、尿意、膝の痛みなど)を言葉で表現できないサイン
「困った行動をする人」ととらえるのではなく、「何に困っているのか」とその人の気持ちになって、背景を探る視点が不可欠です。
対応を統一させる
職員のAさんは「いいですよ」と許可し、Bさんは「ダメです」と叱る。
このように、対応する人によってアプローチがちがうのは、ご利用者の不穏を倍増させます。
- 成功した対応フレーズは申し送りノートやケアプランに具体的に明記する
- 「〇〇さんの帰宅願望には、昔のお仕事の話を聞くと落ち着く」など、チーム全体で対応ルールを共有・統一する
情報共有は、ケアの質をあげるためにも重要です。
環境調整(音・光・導線)による刺激のコントロール
その人の「不快」を取り除くことは、意外なことだったりもします。
精神論や正論でなだめるのではなく、環境を変えるだけで解決する場合があります。
- 音: テレビの音が大きすぎないか(BGMを穏やかな音楽に変える)
- 光: 夕方の影が不気味に見えていないか(早めにカーテンを閉め、部屋を明るくする)
- 導線: 歩き回りたい方には、行き止まりのない回遊できる導線を確保する
音というものは、テレビだけでなく周囲の話し声や外から聞こえる生活音などさまざまです。
特に話し声は、あちこちでちがう話をしていると、騒音や不協和音的な音に聞こえることもあります。
情報を遮断する、という意味でも、できるだけ穏やかな空間を提供してみましょう。
コミュニケーション・チームワークの困りごと
質の高いケアを提供するためには、ご家族との信頼関係、分かりやすい記録、そして他職種とのスムーズな連携が欠かせません。
クレームを防ぐご家族との信頼関係構築
ご家族とのトラブルの多くは、「聞いていない」「伝わっていない」という不信感から始まります。
自分の家族を「大事にされていない」と感じさせることも、クレームや不満につながります。
- 良いニュースも伝える: トラブルや状態低下の報告だけでなく、「今日はお散歩でニコニコされていましたよ」といったポジティブな変化を日常的に伝える
- 事実を早く伝える: ちいさなすり傷やアザでも、「発見した時間と状況」をその日のうちに報告する
介護記録の時間を半減「事実」だけ書く
「不機嫌そうだった」「元気がなかった」などの主観(感情)を書くと、記録に時間がかかる上、状況が正確に伝わりません。
- 主観的な表現(NG): 「夕方から帰宅願望が強く、かなり不機嫌で大変だった。」
- 客観的な事実(OK): 「16:30『家に帰る』とホールを歩行。お茶を勧めると『ありがとう』と着席され、以降落ち着く。」
このように、正確な時間と5W1H(いつ・誰が・どこで・何を)で客観的に書くことで、記録時間は大幅に短縮できます。

記録時間の短縮になるフレーズなど、介護現場で役立つ教材です。
他職種(看護師・リハビリ・ケアマネ)へ一発で伝わる「SBAR(エスバー)」報告
医療職や他職種へ報告する際は、情報の順番を整理する「SBAR」を活用するとスムーズです。
- S(Situation/状況): 「A様が14時に37.8℃の発熱があり、活気がありません。」
- B(Background/経過): 「朝の検温は36.5℃で完食されましたが、昼食は2割残されました。」
- A(Assessment/評価): 「咳はありませんが、水分が摂れておらず脱水の懸念があります。」
- R(Recommendation/提案): 「バイタルの再計測と、受診が必要かご判断いただけますか?」
まとめ:根拠のあるケアで、現場の「困った」を安心に変えよう
施設介護の現場における「困りごと」は、
- 適切なアプローチ
- 環境の調整
- 客観的な情報共有
によって解決できます。
まずは今日の勤務から、声かけのフレーズや記録の書き方など、どれかひとつを変えてみませんか?
現場の負担が減り、ご利用者の笑顔が増えるきっかけになれば幸いです。



